法人設立、誠におめでとうございます。会社を立ち上げ、新たな事業をスタートさせるにあたり、経営者の皆様が必ず直面するのが「社会保険(健康保険・厚生年金保険)」の加入手続きです。
「社長1人だけの会社でも加入しなければならないの?」
「どのような書類を、どこに提出すればいいのか分からない」
このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
日本の法律では、法人は従業員の人数にかかわらず、原則として社会保険への加入が義務付けられています(強制適用事業所)。※設立時点で役員報酬が0円であり、かつ加入要件を満たす従業員が1人もいない場合は加入不要。
本コラムでは、法人設立時に必要となる社会保険の届出について、必要書類の種類や具体的な記載方法、提出先、そして手続きにおいて特に注意すべきポイントを分かりやすく解説します。
1. 提出が必要な書類の種類と具体的な記載方法
法人設立時の社会保険手続きでは、主に以下の3つの書類が必要となります。
① 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
会社(事業所)そのものを社会保険に登録するための、基本となる書類です。
- 書類の概要
- 設立した法人が、社会保険の適用事業所となったことを国(年金事務所)に申告します。
- 記載方法のポイント
- 事業所名称、所在地、事業主の氏名、事業内容などを正確に記入します。現在、法人の場合は「法人番号(13桁)」の記載が必須となっていますので、国税庁のサイト等で事前に確認しておきましょう。
- 主な添付書類
- 法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の原本(提出日から遡って90日以内に発行されたもの)
- 法人番号指定通知書のコピー ※事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合などは、賃貸借契約書のコピー等の追加書類が求められることがあります。
② 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
役員や従業員を社会保険に加入させる(被保険者にする)ための書類です。
- 書類の概要
- 配偶者や子どもなどを健康保険の扶養に入れるための手続きです。配偶者が国民年金の第3号被保険者となる場合も、この用紙で同時に手続きを行います。
- 記載方法のポイント
- 対象者の氏名、生年月日、マイナンバー(個人番号)または基礎年金番号を記入します。「資格取得年月日」は、原則として法人の設立年月日(従業員を雇い入れた場合は入社日)となります。
- 記載時の重要注意点(報酬月額)
- 書類内にある「報酬月額」の欄には、支払う予定の役員報酬や給与の1ヶ月分の総額を記入します。この際、基本給だけでなく、通勤手当(定期代など)や固定残業代などの各種手当をすべて含めた総額(税引き前の額)を記入しなければならない点に注意してください。この額を基に、社会保険料の計算基準となる「標準報酬月額」が決定されます。
③ 健康保険 被扶養者(異動)届 / 国民年金第3号被保険者関係届
社会保険に加入する役員や従業員に、扶養する家族がいる場合に提出する書類です。
- 書類の概要
- 配偶者や子どもなどを健康保険の扶養に入れるための手続きです。配偶者が国民年金の第3号被保険者となる場合も、この用紙で同時に手続きを行います。
- 記載方法のポイント
- 扶養家族の氏名、生年月日、マイナンバー、同居・別居の別、職業や年間収入の見込み額などを記載します。
主な添付書類
続柄を確認するための戸籍謄本や住民票、収入要件(原則として年間収入130万円未満など)を満たしていることを証明する書類(非課税証明書や退職証明書など)が必要になるケースがあります。(被保険者と扶養家族双方のマイナンバーを記載することで、一部書類が省略可能になる場合があります)

2. 書類の提出先・提出期限・提出方法
書類の準備ができたら、所定の窓口へ提出します。
- 提出先 事業所(本店や主たる事務所)の所在地を管轄する「年金事務所」(または事務センター)が提出先となります。税務署や労働基準監督署ではないため注意しましょう。管轄の年金事務所は、日本年金機構のホームページから検索できます。
- 提出期限 提出期限は、事業所が社会保険の適用を受けることとなった日(事実発生日)から「5日以内」と定められています。法人設立日に報酬のある役員や加入要件を満たす従業員がいる場合は、設立日が「事実発生日」となります。一方、設立時に無報酬役員のみで、後日初めて役員報酬の発生や従業員の雇入れがあった場合は、その日が「事実発生日」となります。
窓口持参: 年金事務所の窓口へ直接持参します。その場で書類の不備を指摘してもらえるメリットがありますが、近年は事前予約制となっている場合が多いため確認が必要です。
従業員を新たに雇用した場合の「被保険者資格取得届」も、資格取得日から5日以内が原則です。
提出方法 以下のいずれかの方法で提出します。
電子申請(e-Gov等): 国が推奨しているオンライン申請窓口です。24時間手続きが可能で、窓口へ出向く手間が省けます。(GビズIDの取得など事前のセットアップが必要です)
郵送: 管轄の年金事務所または事務センター宛に郵送します。控えの返送が必要な場合は、切手を貼った返信用封筒を同封しましょう。
3. 手続きにおいて注意すべき5つのポイント
社会保険の届出にあたり、実務上でつまずきやすいポイントや経営者が知っておくべき注意点を解説します。
ポイント1:添付書類(登記簿謄本)の取得にはタイムラグがある
「設立から5日以内」という厳しい期限がありますが、実際に法務局へ設立登記を申請してから登記が完了し、履歴事項全部証明書(登記簿謄本)が取得できるようになるまでには、通常1週間〜2週間程度の時間を要します。 この場合、「5日以内に届出書のみを先に提出し、後日登記簿謄本を追完する」か、あるいは「登記が完了次第、遅滞なく一式をまとめて提出する」ことになります。実務上は後者のケースが多いですが、提出が遅れた場合は「遅延理由書」の添付を求められることがあるため、事前に管轄の年金事務所へ確認を取るか、専門家に任せると安心です。
ポイント2:「報酬月額」の見積もりと役員報酬の決定ルール
社会保険料は、資格取得届に記載した「報酬月額」をベースに決まります。法人の場合、役員報酬は「設立から3ヶ月以内」に決定し、原則として事業年度内は毎月同額(定期同額給与)でなければならないという税法上のルールがあります。 役員報酬の額をいくらに設定するかによって、会社と個人が負担する社会保険料の額が大きく変動します。手取り額や会社のキャッシュフロー、そして将来受給できる年金額のバランスを見据えて、慎重に報酬額を決定することが重要です。
ポイント3:国民健康保険・国民年金からの「切り替え(脱退)」は各自で行う
法人を設立して会社の社会保険に加入しても、これまで個人で加入していた国民健康保険(国保)が自動的に解約されるわけではありません。 社会保険の資格取得手続き完了後、役員や従業員自身で、お住まいの市区町村役場にて「国民健康保険の脱退手続き」を行う必要があります。この手続きを忘れると、会社の社会保険料と国民健康保険料を二重に請求されてしまう恐れがあるため、従業員を雇い入れた際はしっかりとアナウンスしておきましょう(国民年金から厚生年金への切り替えは、資格取得届によって自動的に行われます)。
ポイント4:社会保険料の「会社負担(労使折半)」を事業計画に組み込む
社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料など)は、会社と被保険者(役員・従業員)で半分ずつ負担する「労使折半」の原則があります。 従業員の給与から天引きするだけでなく、それと同額の社会保険料を会社が負担し、合わせて国へ納付しなければなりません。保険料率は都道府県によって若干異なりますが、概ね給与の約15~17%程度が会社負担分の目安となります。法人設立時の事業計画や資金繰り表を作成する際は、この「法定福利費(社会保険料の会社負担分)」を忘れずにコストとして組み込んでおくことが不可欠です。
ポイント5:労働保険(労災・雇用)への加入手続きは別途行う
従業員を雇用する場合は、社会保険のほか、労働保険(労災保険・雇用保険)の新規加入手続きや、労働基準監督署への「適用事業報告」の提出も必要です。本コラムでは割愛しましたが、会社設立時にはこれらも同時並行で進める必要があります。
おわりに:煩雑な手続きと制度設計は専門家へ
法人設立直後は、事業の立ち上げに関する業務に追われ、複雑な行政手続きに割く時間を確保するのが難しい時期です。しかし、社会保険の手続きは企業のコンプライアンスの根幹であり、遅滞なく正確に行う必要があります。
また、社会保険料の適正化や、各種助成金の活用など、設立初期段階からの戦略的な労務管理が、その後の企業の成長を大きく左右します。 書類の作成や役所とのやり取りに不安を感じる方、本業に専念したい経営者の方は、人事労務の専門家である「社会保険労務士(社労士)」へのアウトソーシングをぜひご検討ください。当法人では、法人設立時の社会保険手続きから、就業規則の作成、給与計算まで、経営者の皆様を強力にサポートいたします。どうぞお気軽にご相談ください。